面接死験


   <埴谷雄高に、もとい、サミュエルベケットに・・・>


失礼します。
お、ね、がい、します。


はい?
履歴が分かりにくい。
ま、そうでしょう。
ここだけの話しにしていただきたいんですが、実はわたし、
産まれる前はずうっと死んでおったのです。
どれぐらい前かよく分かりませんが、
お恥ずかしい話しでして。
内密に願います。


多分、宇宙創世より前からじゃないでしょうかねえ。
宇宙がでけたあとですか?
いや、そんなすぐってことはないんで。
まだまだ長い長い時間死に続けておりました。
その間、なにをしていたのか、
はて、よく分かりません。


産まれたのは、ついこないだ。
産まれてまだ間がないんで、生きてるのに慣れてないの。
何かヘン。
お役に立ちたい気持ちはあるんですよ。
そのために来たんです。


そうそう。
このあと、いつか分かりませんがね、
ぼくは死んじゃいますよ。
知ってた。
ご存知でしたか。
いつまでになんて、約束はできませんが、
いずれ、いっぺん死にます。
いずれにせよ、あっという間ですから、
母親が死ぬときもあっけなかったよ。


・・・ ええ。どうも。


あほは死ななきゃ治らないと言いますね。
いや、言うでしょ。
死ぬ楽しみと言うと、それですね。
そやけど、ほんまに治るんかなあ。
きょうび、信用できませんからなあ。
なにしろ、肝心の何が治るんかちゅうことを
政府は公表しよりませんからな。
え? 政府はそのことに関係ない? 
でも・・・
はあ・・・
まったく・・・ない。
あ、そう。
そうですか。
ふーん。
そうかな。
あてになるもんやないし、ねえ。
ま、ええか。
ねえ。


死んだ後はねえ、
どうなるか、ちゅうとねえ、
その後もずうっとずうっと死に続けます。
宇宙消滅後も、凝りもせず死に続けるんです、これがまた。
永い眠りにつくなんて言い回しがありますが。


とにかく、生きてる間が短すぎますから、忙しくて困ります。
やらなあかんことは山ほどあるが、
その億兆分の一も片付けられません。
無限対有限やから。
こればかりはどうしようもない。
何しに生きとんじゃいってなもんですわ。
そやから時間だけは無駄にしたくないのです。
い〜っつも、時間だけは無駄にしとうないと思てるうちに、
時間が無駄に流れてしまう、
とね、そんな生活です。
笑てなしょうないっ!
すんません。
大きい声出してすんません。
いやあ、ほんまに恥ずかしいこってす。


え、あなたも同じ。
へえ、あ、そうですか。
はあ・・・
ここにいらっしゃる皆さん、どなたも同じ
境遇ですか。
奇遇ですね。


へ、へ、へ。


採用ですか! 
ほんまですか。
いいの? 
何で?
野暮なことは聞くな。
はいはい。
ではよろしく。
ありがと、


おっ!
今日から、早速。
準備要らんて。
え、
あ、
ちょと、ちょと、
何しますん。
ど、どこへ、どこへ。


このドア。
こっから。
あっ、押したらあかん。
うわ、なんやこれ。
うわ、うわ、うわ、うわ、うわ〜っ!