⑵<「は」と「が」の使い分けの理論的な解き方と基底文の二元論>

 現代口語標準語を主な対象とする文法研究には、「は」と「が」の使い分けの理論が確立できていないという課題が残っている。
 筆者の研究は、この課題の一般的な解として、「は」と「が」の交差対立理論を確立することから始まった。
 確かに、「は」「が」両者の文中での現れの示す多様で豊富な機能は複雑精妙であるが、特段神秘的な要素などはない。
 一般的な解に至る第一段階の作業は、場合分けである。
 「は」と「が」の前後が同じ文について、1)入れ替えが不可能な場合、2)入れ替えが可能で意味が変わる場合、3)入れ替えが可能だが、意味が変わらない場合のみっつである。

 1)は次のような場合である。
「日曜日は友達が遊びに来るよ」副詞的な状況語につく「は」
「友達が遊びに来たことを知らなかった」修飾句内の主格と述語の間の「が」

 2)入れ替え可能な場合は次のような場合である。

A「雨が降っている」→「雨は降っている」
B「これはくだものだ」→「これがくだものだ」

 二つの例文が示すように、どちらも主節の主格と述語であり、前者に対し、後者は、文全体を有標化して、ある含意を付け加えている。しかしながら、有標化の作用は同じではない。

A「が」→「は」の場合は、文の述べている内容が確かな判断であることを含意するか、または、談話。文章内の一文の構成要素に題目性を加えた含意付与である。

B Aに対し、「は」→「が」の場合は、前者の文の判断内容について、後者の文では、直観的に自明であることを示し、多様な含意を生じさせている。例えば、教示、ガイド、時には、発見、感動、描写性、皮肉など。こういった含意の差異は、広義の文脈との合成によって生じ、意味論的かつ語用論的に特定される。

 この2)の入れ替え可能な場合の文法現象群の総称を交差対立現象と認め、その理論的解明が「は」と「が」の使い分けの一般理論である交差対立理論である。この理論の確立により、さらに、日本語の基底文の二元論の原理を導くことができる。
 
 3)の場合は、2)と同じく、主節の主格と述語のあいだにある「は」と「が」であるが、談話や文章の中で、何度も繰り返し言及される対象につく場合、2)のような文全体を有標化する効力が薄れる場合である。