今日は、我ながら会心のアドバイスができたと思った。


見学させていただいたのは海外で二年教えた経験のある方。
クラスは初級の後半に入ったばかりだが、学習が苦手なタイプの
人たちをできる人たちから分離して、初級前半のやり直しを
一度終えたという、おも〜いクラスである。
口が重い、理解に時間がかかる、活動の切り替えがスムーズではない。
集中力が持続しない、など。


「〜てしまいます」(完了)の口慣らしが終わるところから、
「〜てしまいます」(残念)の導入に入るところだった。


ご自分の愛犬の写真を見せて、(この犬は無料です。友達に
もらいました・・・なんてやりとりの後)「三年前に死にました」
「残念です」「死んでしまいました」を使います。
こんな導入だった。
これで学習者の注目度は高まり、動詞絵カードを使っての
口頭練習は滞りなく進んだ。


次に「〜てしまいました」ができたところで、
「〜てしまったんです」を追加練習。口頭でいうことはできていた。


それから教科書に戻り、会話スキット。
読む練習で「このくらいの」というフレーズが入っているので
講師がやって見せている手の動作を真似ない学習者が多い。
講師が口頭で注意しても動作は最後まで伴わなかった。
そうして会話スキットのビデオを見せる。


以上50分一コマを見て、全授業終了後、回収した提出物の採点、
授業日誌記入、明日の担当者への引き継ぎ連絡、担任との話の後、
私からのコメント


「今日の見学は、昨日、一昨日と学生からクレームが出ている先生の
授業を確認するために見せてもらいました。担任から大丈夫と思うと
のことだったのですが、やるべきことに関して、学生と意思疎通は
できているし、大きな問題はなさそうだということは確認できました
ので、目的は果たせました」
「せっかく見たので、気がついたことをコメントします。
授業でやるべきことを幹として、あともろもろ派生する枝葉の部分に
分けて言いますね。私だったら、こういう展開もあったかな、と
思ったことですが・・・」
「まず「〜てしまう」(残念)の導入ですが、板書も、導入も
並べて意味を説明するような感じでしたが、私なら、ちょっと
違うやり方でやります。<完了>を土台に<残念>が派生していることを
見てもらいたいですから、犬があっちの世界かどこか分かりませんが
行ってしまった、と。私はそこで芝居をいれます。「帰ってきて〜」
と泣くような。でも帰ってこないですね。戻らない、という意味、
取り返しがつかないけど念だけが残る「残念」ですね。「後悔」
とか「失敗」とか、悲劇に結びつく表現で、初級の割には高度な
気持ちとかドラマチックな場面に使えますね」
(字面だけ見るとスピリチュアルカウンセリング
みたいになっとるわ、これ)


20世紀芸術の感情的基盤に共通してある喪失感なんてフレーズが
脳裏には浮かぶ。ブルースもそうだってな、菊池成孔が指摘していた。


「それから、次の「〜んです」(説明/会話に使う)ですが、
これをくっつけるとどんなニュアンスが発生するのか、復習ですけど
学生たちが分かってやっているのか、先生自身も確認できて
ないだろうと思いました」
「私だったら、会話で使うものですから・・・
<指を切ってしまったんです>をやる場合でしたら、
指を切ってしまった身振りをさせて、
会話の相手に「どうしたんですか」というようなやり方にします。
で、そこに説明の「〜んです」を使って、文脈に反応して「〜んです」を
繰り出す練習の形を取ります」
「これをやっておくと、あとで会話の読みのときも、身振り、動作
やってくださいよ〜と言ったら、やってくれたかなと私は思うんですよ」
「このクラスで身振り付きで練習させるのは、手間ひまかかりますが、
ちょっと重い車輪をぐりんとまわすぐらい、でも、この先生は
そういうやり方なんだと認識させてしまえば、後は楽に回りますね」


「以上が幹の部分です。
で、枝葉の部分は、というとね・・・
(この後、講師と学習者の間のいろいろなやり取りの中にあった、
学習者の発話の修正できなかった誤用の指摘。例えば「見せて」を
使うべきところで「見て」など。数カ所。ほとんどの<幹>に関連しない
誤用を修正しなかった)」
「今、初級の後半でしょう、特に彼らは初級前半を二回やっているから、
ようやく日本語の語彙と文法の辞書が頭の中にできてきたところなんです
よね。結構な量の表現をあちこちの引き出しから、場面に応じて、
言いたいことに合わせて、アウトプットする練習の時期でもあります。」
「こう見ると、今日やったのと、今までの蓄積総量の中から適切表現を
選び出すのは、どっちが幹で、どっちが枝葉か、逆転しませんか?」
「へたにごっちゃにすると、授業が混乱してしまいますが。
普通は授業を成立させなければなりませんから、今日やるべきことを
まず優先させなければなりません。でも、直接法でやってるわけだし、
こちらの今日のテーマをめぐるコミュ二ケーションも学生の上達の
材料に入れたほうがいいですよね」
「講師は、そのことを意識して進めるために、授業を「層」として
認識しておきましょう」


「新しいことをどんどん入れる時期と、学生に取っては足踏みに
感じられるような、一度全部塞き止めて、運用力を高める時期は
重なりながら交互にやってくると考えてください。
 今の時期は最初の大きな塞き止め段階と考えていいと思います。
次は初級が終わって橋渡しから、中級後半かなり長い塞き止めで、
新しいことも入れながら進みます」


これがどう会心のアドバイスであったかというと・・・
相手の講師の方が今までやてきたこと、二年間の
海外での蓄積、そこからさらにステップアップするための
方向性を示すことができた点である。
それもこれも、この方のチャレンジがあったからこそである。



だいたいこんなところ。
たくさん書いた。あ〜、しんど。


書きながら気づいたが、時間割を分けて、
効果的な復習のプログラムを組めば良いことを
陶酔してくどくど言ってるんじゃないかと思ったのだが・・・・
どうでしょうか、皆さん。


最後に今日はクレームに関連して「ハウリング効果」という
用語を思いついた。(いずれ説明する機会があるでしょ)


今日は長くなりました。
ご意見ご感想をお待ちしております。