現代日本語の源を訪ねて(前回の続き)


ーその1ー 言語編

近代語の始まりは江戸時代にあった。ということで、山口仲美先生の「日本語の歴史」で、「だ、である、です、ます」がどこから来たか、まとめます。インプットしたら、アウトプット・・・をこの場を借りてやらせてもらいますのじゃ。


「です」江戸時代後期から。相手を見下す尊大さがあったようだが、どういう経過を辿って丁寧になったかまでは、書いてなかった。「ございます」も同時期で、「ござる」+「ます」


「ます」室町時代の「まらする」から来たという。古語辞典を引くと「参らす」(上位者のため、または関連する動作につけて、謙譲とある)から、「まっする」を経て、「ます」にった。気になるのは、源流の一という点であります。ひょっっとすると「まうす」も源流と考えられているのかなあ。


「である」「だ」生まれたのは室町時代の関東。江戸時代にはよく使われていた。漢学者の講釈、国学者の口語訳、僧侶の説教などに見られるそうな。なお、上方では「だ」のところ、「じゃ」が多用されていたそうじゃ。

語誌的に見ると、「にてある」がになり「である」が生まれ、「であ」から「だ」になったそうじゃ。
「であ」(が文末に来た?)というのがいまいち分からん。


ここから、つれづれするのだがね、じゃあ、「ここが静かなのは、ゆのじが出るという噂があるからじゃ」(出典不明、というかわしが勝手に作った例文なんじゃが、)こういう場合の、「静かだ」の「だ」が「な」になるのは、文末の「だ」より先にあったのか、「だ」が確立後、活用が形成されて
からのことなのか、これを調べるという課題が残った。


また、堀口大学「月下の一群」を古書店でみつけ、いずれはかようなものとも対決でせねばならぬやもしれぬ、どれ、ちと拝見、と、開巻したるやいなや驚嘆したるは、「見ね」の一語なり。余の電子辞書にも見当たらぬを、今一度帰宅し参観しやうやく、「ぬ」の命令とありしを見いだし、落着すなり。


今回のリサーチ(というほどのものではありませんが)で、感じたこと。現代日本語の開拓者としての評価の高い尾崎紅葉であるが、文学史では、過渡期の人、通俗的な作品を書いた人として、さほどではない。今は文学全体の価値が下がっているので、昔のように高級な文学と比べて価値が劣るというような差別的な評価ではないので、まだましではあろうが。西洋文学の世界では、意識の流れという手法を始めてやった人については、そのことだけが残っていて、作品そのものの評価はあまり聞かない。今、名前を言えと言われても記憶にないくらいだ。ジョイスに影響を与えたことでかろうじて文学史に名前を残した。


ーその2ー 記号学


インプットしたら、家族のメンバーの一人が、外出するか、死ぬところから、昔話(魔法物語)は始まるので、アウトプットもしなければ、ならない。というわけで、プロップ「昔話の形態学」は、ことばの文法になぞらえて、物語の文法を析出しようとした古典的名著である。


いきなりだが、こんな内容だった。いかにも、昨今のゲーム制作者が参考にしていそうだが。


*******はじまり、はじまり******途中でうんざりした人は、次の「*****」まで
飛ぶとよいのだ。


3章 登場人物の機能
1 家族の一人が家を留守にする。
 (あるいは両親の死、年少者が客に行く、魚取りにいく、遊びにいく)
2 主人公に禁を課す。
  のぞくな、弟の世話しなさい、黙っていろ、
  幸福な背景 対照 やがて訪れる不幸
3 禁が破られる
  2の禁がない場合もある。
4 敵対者がさぐろうとする
  居場所、貴重なもの、
5 犠牲者の情報が敵対者に伝わる

 
6 敵対者が犠牲者をだます
7 犠牲者は、だまされて、敵対者を助ける
8 敵対者が家族に害を加える
  誘拐、呪具を略奪する、種子を奪うか台無しにする、昼の光を奪う
  身体に危害を加える、姿を消す、犠牲者を要求し、おびきだす、追放する
  海に投げ込ませる、人か物に魔法をかける、すりかえる、殺せと命じる、
  殺す、幽閉監禁する、むりやり夫婦になれと脅す、食べる、戦争を宣言する
8−a家族に何かがかけている。手に入れたいと思う
  花嫁、呪具、珍しい不思議な物、
  金銭なり生活手段(で始まって、幻想的な展開へ)
9 被害、欠如が知らされ、主人公が頼まれ、命令され、派遣されるか出発する
  つなぎに、1)連行される2)死ぬはずが密かに解放される
       3)嘆きの歌が歌われる
10 探索者型主人公が、出発を決意あるいは同意する



11 主人公が家を出る
* 贈与者が現れる あらたな人物
12 主人公が、贈与者によって、
  試され=3年間使えるように言う
  尋ねられる=礼儀正しくするともらえる
  死者、死者になろうとするものに、頼み事をされる
  とらわれている者が解放を頼む
  容赦するように頼まれる (カマス、動物など)
  ほかのあれこれ 「食い物をくれ、バターを塗ってあげてくれ」
  攻撃される=敵意を持つ者が主人区を亡き者にする、戦う
  呪具と交換しないかともちかけられる
   呪具、助手を手に入れる準備
13 主人公が、贈与者の働きかけに反応する
    12に対して、行程か否定かどちらかになる
14 呪具が手に入る
   報酬としてなどで、直接手に入れる
   呪具の在処を知らされる/用意される
   呪具を売買する/魔法の鶏、犬、猫
   偶然手に入る 偶然発見する
   突然出現する/しかし、のまれる、食べられるかする
   奪われる
   すすんで助けを申し出る人が出てくる
15 場所へ行く、案内される、送ってもらう、連れて行かれる
  だいたい、よその国にある
  空を飛ぶ、陸路、水路、道案内をしてもらう、
  道案内しえもらう、王女のもとへ、ハリネズミに道を教えてもらう、
  血の跡を辿る、


16 主人公と敵対者が戦う
   野外で、競争(ののしりあい=ユーモアを含む昔話)、カードで争う
17 主人公に標が付けられる
   傷、指輪で額に傷、接吻で輝く、指輪かタオル
18  敵対者が敗北する
19  発端の不幸、災い、欠如が解消される
    求めていたものを力で取る、悪知恵で奪い返す
    二人で奪い返す
    大勢で交代に活動して奪い返す
    餌で釣って手に入れる (交換)
    戦いの結果、王女を手に入れる(直前の行為が原因)
    呪具によって手に入れる
    捕まえる
    魔法が解ける
    生き返る(頭のピンが抜ける/死の歯が抜ける/生死の水がかけられる)
    虜が自由になる
20 主人公が帰路につく


21 主人が追跡される
    追跡者が主人公を飛んで追う
    追跡者が犯人が要求する
    追跡者が(動物に)変身して、追いかける
         呪術師が狼、カマス、人間、鶏に姿を変えて
         誘惑者に・・・
22 主人公は追跡から救われる
    空中を飛び去る/馬に乗って去る/
    障害物を置きながら、逃げる
    主人公が遁走中、身を変える/身を隠す(鍛冶屋)
23 主人公の密かな帰還
24 ニセ主人公が不当な要求をする
25 主人公に難題が課される
    大食い、飲み物、火、風呂、難しい謎解き、選択の難題
    隠れる、窓辺にいる王女に接吻する、門に飛び上がる
    力、起用さ、勇気を試す、忍耐力を試練(鈴の国で7年)
    もってこい型試練(薬、婚礼衣装、指輪、靴、海の王の髪、
    空飛ぶ水、命の水、連帯をつくること、77頭の馬、一夜で宮殿
26 解決する


27 主人公が発見認知される
28 主人公か敵対者の招待が露見する
29 主人公の新たな正体が与えられる
30 敵対者が罰せられる
31 主人公は結婚し、即位する


4章
機能の同化と多義性 
(同化)「贈与者による試練と難題などの例」
単一の機能が二重の意味を持つ(多義性)「加害者の説得に応じて禁を破るなどの例」


*********お疲れ様!************************


いえね、前回の欄で紹介した「日本文学盛衰史」の姉妹編「官能小説家」を
読んでいたら、樋口一葉ら小説学校の学生が、この「昔話の形態学」を使って
書き方を練習するという、またもや、あり得ない馬鹿エピソードが出てきまして、
でも、むか〜しむか〜し、読みたいと思ったまま読んでなかったので、図書館から
借りてきたのでした。この作品、高橋さんの書いた方ですが、桃水と一葉と鴎外の
美しい三角関係が、透き通った文体でよかったのですが、おすすめはできませんよ。
<薄汚い性描写>もふんだんに出てきますのでね。普段グロ描写には筒井先生でなれて
いる私でも、いやな気持ちになりましたので。普段お上品なのしか読まない人は
手を出さない方が、ようござんすよ。


え、そういうのが好み? そういう方はどうぞ。


「もう、ほんとに、高尚な内容だけで十分なのに、源一郎様ったら、どうしてあんな、
いやらしい文章をいきなりはめこんだりするのかしら、地下鉄の車内で読んでいて、
恥ずかしくてたまらなかったわよ。」などという感想が予想されます。


でもね、高橋さんの二作品を読んで、「小説を書いた人たち、書こうとした人たち」
みんなが生身の人間として努力をしていたことが、愛おしく感じられたのです。
目配りが届いて、浮かばれなかった川上眉山半井桃水が浮かばれてましたよ、
ほんと。