ギリシャの哲人に正義を学ぶ「プラトンの正義と幸福」(天野正幸著)

第1章 正しい人は幸せか?

最も正しい人と最も不正な人とどちらが幸福か

正義は、それ自体で価値があるのか、もたらす結果によって価値があるのか、
    その両方によって価値があるのか。
    ソクラテスプラトン)は最後の考えである。

プラトンの前提 正しい人:ノモスにおいてではなくピュシスにおける徳を知り、
             積極的に善を実行する人
        世間から不正な人間だと思われているかもしれない。

        正しい行為は、行った人を幸せにし、不正は人を不幸にすると
        プラトンは考える。


一般の人々の正しい人 ノモスに従わなければ罰せられるので、不正を行わない人
   僣主のように不正を行っても罰せられない者は幸せであるとも考えている。


議論、証明ーー
まず一般の人々の考えでは
「ギュゲースの指輪」なんでもできるならば、人は不正をも行う。
「父から子へのの教訓」正しいことを行えば、権力や結婚などが得られ、神からの
           褒美も得られる。
無力で貧乏で正しい人間より、大金持ちで有力者である不正な人間の方が、幸福と
見ている。


プラトンの考えでは・・・
最も不正な人は、世間からも不正とは思われていない。名声(思われ)を得ている。正しい人は、不正の悪評をすら買っている。ただただしい人で「ある」だけだ。


損か特かで考えると、前者が得である。だが、プラトンによれば、不正を行う者は不幸であり、善を子なう者が幸福である。正義そのものが魂にとって有益であるからだ。


幸福とは何か? 欲求を満たすことであるとする人は、それ自体で不幸である。
欲求を程々にすることは難しく、とめどがなくなり堕落するからである。プラトンの回答は、快の大きさではなく、必要な快楽に的を絞り、満足度を重視することである。



第2章 正しい人(国家)
理想国家の堕落していく段階説
名誉支配国家、寡頭制国家、民主制国家、僣主制国家


理想国家
農夫、大工、機織り、靴つくり 必要最小限のシステム


贅沢の導入
家具職人、狩人、芸術家、奉仕者(世話係)


守護者の導入
戦争に備える軍人(後の議論では、支配者とされる)


まとめ 理想国家の人々
    支配者、軍人、労働者 魂の理性的部分、覇気的部分、動物的部分に対応


守護者の条件 覇気、勇気、温和、知恵
その教育 ムシーケー 
     詩の内容と語り方、体育 
     禁止内容(ウラノス、クロノスの神話親への報復、神々の戦争)
     禁止技法(幸不幸の原因が神の話、神が人を欺く話)
     神と親を敬い、友愛を重んじる人に育てるため。
     その他の禁止(人や財産の喪失を過度に嘆く、目下が目上を罵倒する、
     神々が快楽や愛欲を賛美したり、英雄や贈り物に左右されること。
     英雄の不敬な言行)
     模倣の注意 女、奴隷、男の臆病者や酔っぱらいや悪態をつくもの、
     冗談や下品なことを言うもの、牛馬、川や海の音、雷鳴

     詩の伴奏音楽は多彩にならないように


理想国家の裁判と医術


国家を維持するためのミュートス
国民全員が同胞であり、支配者には金、補佐には銀、農夫や職人には銅が埋め込まれている。


守護者の生活
少なすぎない財産を与える、が不要な私有財産は持たない。

身体的快楽、名誉欲、知的快楽のうち、最後の快楽を知る者のみがほかのふたつをもよく知っている。金の種族の人間である。


第2節 理想国家の正義

正しいエピステーメーを持つ。善のイデアに基礎を持つ。(プラトンの善のイデアは探求すべき目標である)


国家の勇気 戦争に出ることはいいことである。(それがどのようにであるかは
説明はない。プロタゴラス


国家の節度 誰が支配すべきかについての合意 反対の意思表明をしないことによって合意と見なされる。


国家の正義 「自分のことをなすこと」が根本原則である。
知恵 支配者の能力がない者は支配者にならないこと。


第3節 個人の正義


魂の三分説 覇気、欲求、理性 それぞれが別個のものである。
知恵と勇気は、理性と覇気に関連し、正義と節度はみっつすべてが関わる。


正義と不正について
不正とは魂の内紛であり、欲求という支配されることがふさわしい部分が支配しようとする越権行為または叛乱である。



第3章 不正な人は不幸せ(国政との類比)


第1節 名誉支配的人間 
理想国家の堕落過程 守護者階級の中からふさわしくない者が生まれ、ムーシケー教育がおろそかになる。金銀銅鉄の区別が出来ない者が生まれる。混乱し、土地と家の私有、友である扶養者の奴隷化、守護者は戦争と守護に専念する。

最前者支配を模倣するが、盲目的に強制によって目上を敬う。
労働者の仕事に手を出し金儲けに走る。
軍人の真の勇気、節度は養われない。

戦争し続ける。要するに軍人支配になる。
支配欲、名誉欲が強い。頑固、語る術はわきまえていない。奴隷に厳しく、自由人には穏やかで支配者には従順、卑屈になる。若いうちは金銭を蔑視するが年を取れば取るほど執着する。体育を重した教育を受けて覇気的部分が過度であるから、頑固である。

善き人であっても、国家がよく治められていない時は、支配する職に就かない父親。これについて、母親や召使いは、その子に父親がふがいないと話す。子は「自分のことをする」ものは愚かものであると思うようになる。

勝ち気でプライドが高く名誉欲が強い者になる。父の理性的部分が覇気的部分にひっぱられる。


第2節 寡頭的人間
五つの短所
支配の技術をわきまえていない。
貧乏人と金持ちが互いに陰謀を巡らす分裂国家である。
外敵に弱い。
農業、金儲け、戦争と多くの仕事に従事する
無産者が多く出て、ごろつきになる(ここからほころび始める)

名誉的人間である父親が失敗し、その子は金銭欲が強くなる。

寡頭的人間の欲求
金銭を最も重視するのは欲求的部分が支配的であるから。


第3節 民主制的人間

寡頭制では、破産防止や無産者増加を止める法律を作らないで、支配者の子弟は
快楽の我慢、苦痛に耐える訓練を受けない。内乱が起こり支配者が追放され、民主制になる。

自由、言論の自由がある。支配者は悪しきポピュリズムに陥り、理想国家の徳育
忘れ去られる。女子供がいろとりどりのものをみて喜ぶように、民主制はもっとも
美しいと言われる。

支配者になる者は、誰でもなれるために、私利私欲に走る者がなる。

必要な欲求と不必要な欲求
特徴
全ての快楽に価値を認める。


第4節 僣主的人間

民主制の堕落形態 自由の美酒に酔い、放縦な政治を要求する。民主制の構成要素3種類の人間 怠け者で浪費家の雄蜂、雄鉢の財源となる金持ち、そして民衆

僣主的人間は「ノモスに反する欲求」をもつ。睡眠中に現れる。愛欲に溺れやすい。エロースが支配している。

特徴
追従者とつき合う。友人にならない。他者の信頼に応える気が全くない。


第4章 不正な者は幸せか。最も不正な者がもっとも不幸せである証明。


第1の証明(国家と魂の類比)

僣主制国家は最も不幸である。
僣主自身すら支配できないのに他の人たちを支配しようとする。
ほかと共同してすることは何も出来ない。恣意、放埒は個人的なことに限られる。

僣主的人間が最も不幸で、最善者支配性的人間が最も幸福である。


第2の証明(快楽の優劣に基づく証明)
知恵を愛求する者の判定が、金銭欲、名誉欲を重んずる者より、正しい。

<美醜・善悪に関する倫理学プラトンは打ち立て得ておらず、それを用いた論証はない>

快楽主義的幸福感によって、魂の理性部分による知的愛求が最も快であるとしている。


第3の証明(二種類の快楽の区別による証明)

快楽には中間状態がある。
まやかしの快楽と真の快楽がある。魂の快楽が真の快楽である。

上(魂)、中、下(身体)の快楽がある。

一般人、僣主、最善者のそれぞれが味わう快楽

不正をなすことが得であるという考えに反対する二つの議論
その1:動物のたとえ
多頭の怪物とライオンと人間の3者を争うに任せるのと、人間が支配するのとどちらがよいだろうか。

その2:社会的観点から
不正に金を得ることは、自分の最も優れた物をもっとも下劣な者の奴隷にすることである。


第3節 幸せになるには

最善者の奴隷になるべきである。
(=理性による愛求に基づく善の教えに従い、覇気的部分と欲求的部分を従属させることである)
思慮と節度と正義を身につける方法
1)その目的に合致する知識のみに注意を払い、ほかの知識の価値を認めない。
2)野獣的で非理性的な快楽に耽らない。
3)金銭の所有に関しても魂の合意と秩序を目的とする
4)自分をより善い人間にする名誉のみを追求する

正義に報酬があるか、については議論しない。死後に報われるかどうかは問わない。


おわり